太田光海監督『カナルタ 螺旋状の夢』と併映で上映しました。


 

あるインタビュー(※)の中で太田光海監督が、近代社会の人たちに対してシュアール族の人たちは「世界からの疎外の感覚が薄いのではないか」と話していた。

19世紀の産業革命以後、機械化・分業化・管理化によって人間の働きがその人間の生活から遠く離れてしまった状況を、マルクスは「疎外」という言葉で表している。
そして、その感覚は私たちの日常に転がっている。深夜のコンビニに缶ビールとポテチを買いに行く時、蛇口をひねれば温かいお湯が出てくる時、地球の反対側で作られた音楽をサブスクでチェックする時。自分の暮らしの中に当たり前にあるのに、そこに関わった人の仕事の過程を想像することができない。実感のなさ。手応えのなさ。

太田光海監督が撮った『カナルタ』はエクアドル南部アマゾンの熱帯雨林、小田香監督が撮った『セノーテ』はメキシコユカタン半島北部に点在する洞窟内の泉を映している。そのどちらもが「世界からの疎外」に対峙した作品のように思える。そこにあるのは自らの身体で試すこと。
カメラを持ってその土地に分け入り、そこで暮らす人と交わり、撮影という行為とその後の編集という作業を通して、気が遠くなるほどに他者の記憶や風土を知ること、感じること、わかれないこと。

それは、既存のドキュメンタリーやフィクションというジャンル区分からは逸脱し、「ドキュメンタリーは何かを知るためのもの」「フィクションは物語りを楽しむためのもの」といったような枠組みを宙吊りにしてしまう。安心できる決まりも指針もなく、どこか頼りなく疑わしげでもある。アマゾンの森の中で足元はぐらつき続け、メキシコの水中では前後左右も定かでなく浮遊する。バランスを失い、見通しが悪い。
しかし、全身の感覚を研ぎ澄まして味わうこの体験や徒労に居心地の良さも感じる。

つまりは我々の、世界からの疎外感をできるだけ薄くするために。

(※2021.12.18 尹雄大 公開インタビューセッション vol.10)

 


 

[Official introduction]
メキシコの泉セノーテをめぐる神秘の旅
カメラは浮遊する
失われた光と記憶を呼び戻すために

メキシコ、ユカタン半島北部に点在する、セノーテと呼ばれる洞窟内の泉。セノーテはかつてマヤ文明の時代、唯一の水源であり雨乞いの儀式のために生け贄が捧げられた場所でもあった。現在もマヤにルーツを持つ人々がこの泉の近辺に暮らしている。現世と黄泉の世界を結ぶと信じられていたセノーテをめぐって交錯する、人々の過去と現在の記憶。そこに流れるのは「精霊の声」、「マヤ演劇のセリフテキスト」など、マヤの人たちによって伝えられてきた言葉の数々。カメラは水中と地上を浮遊し、光と闇の魅惑の映像に遠い記憶がこだまする。

 

 

監督・撮影・編集:小田香
現場録音:アウグスト・カスティーリョ・アンコナ /整音:長崎隼人
現地オーガナイザー:マルタ・エルナイズ・ピダル
声の出演:アラセリ・デル・ロサリオ・チュリム・トゥム、
フォアン・デ・ラ・ロサ・ミンバイ
企画:愛知芸術文化センター、シネ・ヴェンダバル、フィールドレイン
制作:愛知県美術館 /エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司/プロデューサー:マルタ・エルナイズ・ピダル、ホルヘ・ボラド、小田香
配給:スリーピン
2019年/メキシコ・日本/マヤ語・スペイン語/75分

上映スケジュール・予約はこちら

【上映期間】

2022年2月26日(土)27日(日)
3月4日(金)5日(土)6日(日)7日(月)

【料金】

一般・シニア 1,800円
25歳以下  1,300円
18歳以下  1,000円

【上映時間】

75分(1時間15分)
各回30分前に開場します

【公式サイト】

http://aragane-film.info/cenote