濱口竜介監督の『PASSION』と『HAPPY HOUR』を上映します。
9月23日（土）には濱口監督を
ジグシアターにお招きしてトークイベントを行います。

おそらく多くの人が「濱口竜介」の名を、前作『ドライブ・マイ・カー』のアカデミー賞やカンヌ国際映画祭の、あるいは『偶然と想像』のベルリン国際映画祭の受賞ニュースで目にしたことだろう。けれどおそらく多くの人は濱口竜介がキャリアの初期からベラボーに素晴らしい作品を撮り続けていることは知らないかもしれない。知っていたとしても観る機会は限られている。だから、これから少しずつジグシアターで届けていこうと思う。

『PASSION』は東京藝術大学大学院映像研究科の2008年の修了制作で、濱口竜介が世界に発見されるきっかけとなった初期の代表作だ。日本にとんでもない映画監督が現れたという衝撃とともに、映画に愛されているとしか言いようのない奇跡が映っていると感じた。『ハッピーアワー』は濱口竜介が神戸に滞在し、演技未経験の出演者とのワークショップを経て制作された2015年の作品だ。濱口竜介にとっても現代映画にとっても大きな転換点であり、一つの到達点とも言える重要な作品だ。5時間17分という長さは人を尻込みさせるのに十分だけれど、観た人は「あっという間だった」と話す。あるいは、およそ映画を観たという感覚からかけ離れたいびつな体験と言えるかも知れない。画面に映っている見ず知らずの他人が、幾晩も語り明かした友人のようにさえ思えてくる。私たちジグシアターにとっても大切な作品だ。

濱口竜介の作品は、映画好きから愛され、アカデミックな批評家からも高く評価されてきたけれど、何というかただひたすら素直に面白くて、TVのトレンディドラマに夢中になるように普通に楽しめてしまう映画でもある。こんなにも俗っぽい話なのに、どうしてこんなにも琴線を揺さぶられ、時にズキズキと、時にウルウルとしてしまうのだろう。

最新作『悪は存在しない』がヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出されるなど、濱口竜介はいまや世界が最も注目する映画作家となり、これからの数十年で作品も評価もますます磨かれていくに違いない。著名な映画監督の宿命として「あの時代の濱口竜介がよかった」などと言われることが今後あるかも知れないが、過去の作品を振り返ることは単なるノスタルジーではなく、優れた作品はいつだって今観るべき作品なのだ。

『PASSION』

監督・脚本：濱口竜介
撮影：湯澤祐一／照明：佐々木靖之／録音：草刈悠子／編集：山本良子
出演：河井青葉、岡本竜汰、占部房子、岡部尚、渋川清彦 ほか
2008／115分　©︎東京藝術大学大学院映像研究科

結婚間近の果歩と智也を祝う席上、智也の過去の浮気が発覚し…。男女５人が揺れ動く一夜を描いた群像劇。渋川清彦、河井青葉、占部房子と、『偶然と想像』や濱口作品の常連になる俳優たちが結集している。第56回サン・セバスチャン国際映画祭、第9回東京フィルメックスへ出品され映画作家・濱口竜介が世界に発見されるきっかけとなった初期代表作。

『ハッピーアワー』

監督：濱口竜介
脚本：はたのこうぼう（高橋知由、野原位、濱口竜介）
撮影：北川喜雄／照明：秋山恵二郎／録音：松野泉／音楽：阿部海太郎
出演：田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら ほか
2015／317分　©2015 KWCP

30代も後半を迎えた、あかり、桜子、芙美、純の4人は、なんでも話せる親友同士だと思っていた。純の秘密を知るまでは……。市民参加による「即興演技ワークショップ in Kobe」から誕生した。ほとんどの登場人物を演技未経験者がつとめ、これまでにない試みでつくりあげた三部構成の本作は、ロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した。